新翻訳事業について

日本聖書協会 講演会 原文の味・訳文の味 柊 曉生氏

柊 曉生氏
2015年3月6日
於・フクラシア東京ステーション

Ⅰ 語順の問題

言語によって語順は違いますので、訳文においては語順を入れ替えたりして、日本語として自然な語順に直すのが適切であると思われます。ただ、原文の特徴的な表現方法を生かすために、日本語としては少し奇異に感じられることもありますが、その語順どおりに訳すのがいいのではないかと考えられる箇所もあります。以下、いくつかの例を取り出してお話しいたします。

(1)キアスムス(交差並行法)(創世記2章4節)

創世記2章4節の前半は「これが天と地の創造の由来である。」のに対し、後半は「主なる神が地と天を造られたとき、」となっています。

「これが天と地の創造の由来である。」(4節前半) 天と地 AとB
「主なる神が地と天を造られたとき、」(4節後半) 地と天 B’とA’

前半が「天と地」であるのに対し、後半は「地と天」となっています。「AとB」と「B’とA’」を上下にならべ、AとA’、BとB’を結びつけて線を書きますと、Xの字ができあがります。Xはギリシア語でキーと呼ばれますので、こうした文芸的な技法はキアスムス(交差並行法)と名づけられています。聖書にはこのキアスムスが多く出てきます。

創世記2章4節の前半は、創世記1章1節からはじまる天地創造の7日間の物語のしめくくりで、後半は2章25節までのもうひとつの天地創造の物語のはじまりです。元来は異なる別々の天地創造の記事がつなぎ合わせられたもので、ひとつに合わせられた時、後半はおそらく元来は「天と地」であったのを「地と天」として、前半の「天と地」と結びつけたと考えられます。交差配列法は聖書の特徴的な表現の方法でありますので、日本語でよほど奇異に感じられない限り、原文通りに訳すのが適切でしょう。アラビア語の挨拶でもこのキアスムスが用いられており、これは中近東の伝統的な表現の方法であることがわかります。

「アッサラーム・アレィクム(平和が・あなたに[ありますように])」
「ワ・アレィクム・サラーム(あなたに[ありますように]・平和が)

日本語では、こうした文芸的な技法はあまりなじみのないものですが、それでもないことはありません。以下のような『正法眼蔵』の語句の例もあります。

「耳をかろくすることなかれ、目をもくすることなかれ。
「目をもくすることなかれ、 耳をかろくすることなかれ。」(「座禅箴」道元)

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