新翻訳事業について

日本聖書協会 講演会 原文の味・訳文の味 柊 曉生氏

柊 曉生氏
2015年3月6日
於・フクラシア東京ステーション

(3) 創2章10節-14節(四つの川)

創世記2章10節から14節にかけて、エデンの園から分かれ出る四つの川の記事があります。

11節 第一の川 ピショーン(アラビア・エジプト?) 12語
12節 +8語 = 20語 ↓
13節 第二の川 ギホーン(エチオピア?) 10語 ↓
14節 第三の川 ヒデケル(チグリス) 8語 ↓
第四の川 ユーフラテス 4語 ↓

第一の川の単語数は20語で、第二の川はその半分の10語です。第三の川の単語数は8語で、第四の川はその半分の4語です。単語の総数は7×6の42語となりますが、20語から10語、8語から4語とだんだんに語数が減ってきています。第1の川(エジプト近辺?)と第2の川(エチオピア近辺?)がどこかは明白ではありませんが、イスラエルの南西の方角あたりだとすれば、第3の川(チグリス川)と第4の川(ユーフラテス川)は北東にあたり、近隣周辺の全地域をあらわしているということになります。

Ⅲ 語彙の問題

多くの意味をもつ多義的な原語はどのように訳したらよいのでしょうか。翻訳する場合は多くの意味を並べたてるわけにはゆきません。どれか一つを選んで訳さなければなりません。

(1) 男と女(創世記2章24節)

「こういうわけで、男は父母を離れて女と結ばれ、二人は一体となる。」 (新共同訳)
「それで人はその父と母を離れて、妻と結び合い、一体となるのである。」(口語訳)

ヘブライ語のイシュという単語は、男、夫、人などの、イッシャーは女、妻、雌などの意味を持っています。ですから原文では同じ単語であっても、翻訳によっては異なってくるということがあります。

2章23節ではすでに「イシュからイッシャー」(男/夫から女/妻)という語呂合わせがあります。24節はそれを受け、男と女が結ばれて夫と妻になる話です。

はじめに、「アダマからアダム」(厳密には「土からの塵で人」7節)が形づくられたと述べられており、人には男と女がいますので、おそらく23節の「イシュからイッシャー」は「男から女」を言い表しているのではないかと思われます。ところが24節で、まだ一人の男と一人の女しかいない状況で、唐突に「父と母」が出てきます。これは男が父母から独立して女と結ばれ、「夫と妻」になる話をするためであると考えられます。

それゆえここでの「イシュとイッシャー」は、「夫と妻」の関係をあらわすために述べられているとみてよいと思われます。ただ、それをどのように翻訳するかは難しい問題です。多くの場合、イッシャーに関しては、妻と訳すのがほとんどですが、イシュに関しては、男と訳すほうがほとんどです。

(2) 弓と虹(創世記9章13節)

「わたしは雲の中にわたしの虹を置く。」(新共同訳)
“I have set my bow in the clouds,”   (NRSV)

洪水物語の中で、洪水後、神はもう二度と洪水はおこさないとノアと契約を立て、そのしるしとして雲の中に虹を置くと言われます。

新共同訳聖書の虹という訳語は、ヘブライ語のケシェトを訳したものですが、この語は元来は弓をあらわしています。雲の中にあるということで、それが虹であると見てよいでしょう。ただ、多くの諸外国語訳はそのまま弓と訳しています。外国語で虹は、 Rainbow レインボー (英語)、 Regenbogen レーゲンボーゲン (独語)、 Arc-en-ciel アルカンシエル (仏語)など、雨あるいは空と弓との組み合わせで虹をあらわしていますので、その理解は困難ではありません。

日本語では、漢字の虹―これは天空にいる龍または蛇が雨を降らすことと関係しています―が使われ、弓との関連はありません。むしろ日本では、弓張り月、白真弓というように、弓は月との関連でイメージされます。虹も月もどちらも天空に出るものではありますが。

ただここではやはり、弓の意味は大きく、弓が戦争の武器であることから、神がそれを取り上げて戦争のしるしを平和のしるしとした、もう決して弓は使わない、あるいは神が弓をもって見張っているなどの意味が考えられます。いずれにせよ、洪水後、弓の意味が変わったということで、洪水以前と洪水以後の状況変化を端的に弓があらわしています。ですから「虹」と訳出しただけでは、「弓」のもつ意味が日本語では出てきません。こうしたことは「本文注」で「原語は弓」となどと注記すれば、より深い理解につながるものと思われます。

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