新翻訳事業について

聖書事業懇談会 文化を超えて聖書の行間(神のマイナンバー制度) 浦野 洋司

浦野 洋司氏
2016年3月11日
於:メルパルク横浜

音を再現する翻訳

プロテスタントで「外典」、カトリックで「第二正典」と呼ばれる書物の中に「スザンナ」という書があり、ダニエル書13章として補遺扱いになっています。ユダヤ教でも正式な聖書ではないのですが、その内容はこのようになります。悪質な二人の長老がヨアキムの妻、スザンナが夫を持つ身であるのを知りつつも、彼女と情を交わすことを狙い失敗、逆に長老がスザンナを訴え、あわやその餌食となる直前に、預言者ダニエルによって危機一髪助け出されるというお話です。ダニエルによる裁判の件、54節以下はこのようになります。

二人が一緒にいたのはどんな木の下でしたか。それで彼は、「乳香樹の下だ」と答えた。ダニエルは言った。「まさしくあなたは致命的な偽証をした・・・神の使いが、神の判決を受け取り、あなたを二つに裂く」~中略~ また、「二人が一緒にいたところをあなたが捕らえたのは、どんな木の下でしたか」彼は、「かしわの木の下だ」と答えた。ダニエルは言った。「まさしくあなたも致命的な偽証をした・・・神の使いが剣を持ち、あなたを真っ二つに切り裂こうと待ち構え、討ち滅ぼす」。

この箇所のギリシア語はふたつの木の「名前」と神からの「処罰」を同じ音で表現しています。乳香樹は「スキノン」、その嘘に対する罰、二つに裂くは「スキセイ」、またもう一人の長老のかしわの樹は「プリノン」、これに対する罰、引き裂くは「プリサイ」という次第です。通常、翻訳文で、原典の音まで再現するのは不可能ですが、これを実現した珍しい例がアンコール・バイブルという英訳聖書です。

まず、スキノン、乳香樹をユー(yew)と訳しました。これはマスティックツリーなどといわれる常緑針葉樹で日本ではアララギとも呼ばれます。これに対応する罰「二つに裂く」をヒュー(hew)と訳し、ユー/ヒューの音韻です。また、かしわの樹はクローブ(cloveでevergreen oakとも呼び、日本名ちょうじ、百里香とも呼ぶ)で訳し、対応の罰、「引き裂く」はクリーブ(cleave)で、クローブ/クリーブという実に翻訳の快挙にも思われます。

さて、新翻訳ではナホム2章11節に似たような箇所がありました。即ち、預言者ナホムが神の罰によって敵の攻撃と水害で滅びるニネベの町を表現した箇所ですが、9節以下はこうなります。

ニネベの町は、水の流れ出す池のようだ。 「止まれ、止まれ」と叫んでも 誰も振り返らない。 「銀を奪え、金を奪え」 財宝は無尽蔵、またとない宝の山。 破壊と崩壊、そして壊滅。心は挫け、膝は震え誰の腰もみなわななきどの顔もみな青ざめる。

「破壊と崩壊、そして壊滅」に相当するヘブライ語は「ブカー、ウメブカー、ウメブラカー」で、「ブクブク」という水音を意図的にとり入れた言葉が3つ並べてあると言われます。新翻訳では当初「空虚、虚無、廃墟」とブクブクの代わりに「キョ」3回でしたが、議論の結果、最終的には「破壊と崩壊、そして壊滅」と「カイ」を3回繰り返す訳となりました。ちなみに、英語でも同じような試みがされていて、3回のR(Raid and ravage and ruin・JB)や3回のDE+TION(Desolation, devastation and destruction・NJV)他にdesolate, dreary, drained・MFTや、destroyed, deserted, desolateなど似たような訳があります。

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