人生のターニングポイント ーーーーーーーーーーーー Shall we ダンス? という映画をご存知だろうか。 役所広司さん、草刈民代さん、竹中直人さんなどが出演している、とある社交ダンス教室を舞台にした映画である。、リチャード・ギアやジェニファー・ロペスらによってハリウッドでも有名になった。 今から十数年前、私もこの世界の住人だった。プロの競技サンサーとして活動をして、イギリスのブラックプールで開催される世界選手権にも出場したことがある。それほどまでに本気で踊っていた。 しかし、ある朝起きたら、耳が聞こえなくなっていた。 当時、一人暮らしをしていたワンルームは、線路沿いの部屋だった。電車の音が気になって眠れないこともあった。それが、全く聞こえないのである。 これは、なんか変だぞ、と思ってテレビを付けたが、やっぱり音は聞こえない。深い海の中にいるような感覚で、トイレに行こうと立ち上がると、方向感覚がおかしくなって、まっすぐ立つことができない。壁沿いにトイレに行き、水を流すが、音が聞こえない。不思議な感覚と同時に、とてつもない不安に飲み込まれた。 音の聞こえないダンサーはいらない。 実際にそう言われたかどうか、今となっては記憶が曖昧になっているが、私は自分自身が不必要な人間になってしまったと焦った。一人ではどうにかなりそうだったので、クリスチャンの母にメールを送る。母と一緒に病院に行き、突発性難聴だと知った。 ひっそりとダンス界から去った私は、実家に戻り、何もしない日々を過ごしていた。そんな私を見かねた母が、自分の通っている教会に、私を連れて行ってくれた。何も聞こえないのに意味があるとは思えなかった。駅までの道のり、電車の中、どれも恐怖でしかなかった。しかし、この日、私は衝撃体験をすることになる。 はじめての場所、はじめて会う人。妙に馴れ馴れしい雰囲気。 「やっぱり宗教って、怪しい・・・」 そんな気持ちを抱きながら行った教会で、讃美歌が聴こえた気がした。突発性難聴は治っていないので正確には聞こえていない。耳からじゃない。耳では聞こえない。心? 胸? 体? いや、細胞に響いている、という表現が一番しっくりする。 あれから数ヶ月後、耳が聞こえるようになった。その数年後、私は洗礼を受けた。 今になって思えば、神様が「いい加減にこっちの話を聴きなさい」と、私の耳を塞いでくれたのだろう。そうでなければ、私はずっと気が付かないまま生きていたと思う。 あの時は、絶望しかなかった。 でも、どんな絶望の中でも希望があると、今では思えるようになった。 今、苦しみと悲しみのどん底にいる人に届きますように。 (1067文字)