日本聖書協会150年記念講演会(6月14日・立教大学)開催報告

― ペトラ・フォン・ゲミュンデン氏による講演「彼は権力ある者をその座から引き降ろし 低い者を高く上げる」 ―

2025年6月14日(土)、立教大学太刀川記念館にて150年記念講演会を開催しました。講師に、ドイツ・アウグスブルク大学名誉教授のペトラ・フォン・ゲミュンデン氏をお迎えし、「彼は権力ある者をその座から引き降ろし 低い者を高く上げる―マリアの賛歌に見る伝統と革新の相互作用―」と題して講演いただきました。

ゲミュンデン氏は、ルカ福音書1章に記される「マリアの賛歌(マニフィカト)」がユダヤ教の詩篇やサムエル記の「ハンナの祈り」に深く根ざしながらも、独自の神観と社会観を力強く歌い上げていることを紹介。社会的逆転のモチーフが繰り返し登場し、「権力ある者の退け」「低き者の高挙」「富める者の空腹」「飢えた者の満たし」など、神が社会の常識を覆して働かれると語りました。

また、この詩がルカ福音書の文脈に挿入される以前は、独立したユダヤ教の詩だった可能性が高いことを指摘し、聖書の中で伝統的な言葉が新たな文脈のもとで再解釈される「伝統と革新」の力動を解説しました。

講演では、宗教改革者ルターによるマニフィカト解釈や、ヒルデガルト・フォン・ビンゲンの霊性、さらにはラテンアメリカの解放神学、フェミニスト神学などにおける受容と展開にも言及。長い歴史の中で、この賛歌が時代ごとの社会的文脈に応答し続けてきたことを、豊富な例と共に紹介してくださいました。

ゲミュンデン氏と通訳の廣石望氏

講演後の質疑応答も活発に行われ、日本聖書協会が150年にわたり担ってきた聖書翻訳・頒布の営みを、改めて聖書そのものの力とともに見つめ直すひとときとなりました。 

講演の模様は、日本聖書協会youtubeチャンネルにて配信予定。