【150年記念講演会】ハイドルン・E・マーダー氏「十字架の愚かさから平等の教会論へ ― パウロとマルコの対話」開催報告
11月24日、上智大学を会場に日本聖書協会150年記念講演会を開催しました。3回目となる今回は、ドイツ・ケルン大学のハイドルン・E・マーダー教授を迎えて「十字架の愚かさ」を主題とするパウロとマルコの神学的対話について講演をいただきました。

マーダー氏は十字架刑が古代社会で侮辱の象徴であったことを示しつつ、パウロがその「愚かさ」を神の知恵と力として再解釈した点を強調。パウロは、地位や名誉を重んじる価値観を十字架が覆すと語り、コリントの教会にもこの“逆転の論理”を受け入れるよう促したと説明しました。
さらに、マルコ福音書がパウロの十字架神学を物語として表現していると述べ、「自分の十字架を負って従う」ことが弟子の本質である一方、十二弟子は誤解を重ね、情熱を受け入れられない姿が描かれていると解説。これに対し、マルコは三人の無名の女性を、真の弟子の模範として提示します。油を注ぐ女性はイエスの死を正しく受けとめ、出血のある女性は信仰によって癒しを得、シリア・フェニキアの女性は異邦人の参加と諸国民が同じ食卓につく教会の姿を象徴しているとし、彼女たちが弟子たちが理解しきれなかった「十字架に従う信仰」を体現する存在であると示しました。
最後に、パウロとマルコの共通点として、ユダヤ人と異邦人、男性と女性を隔てない「十字架のもとに成立する一つの教会(ἐκκλησία)」のビジョンを指摘。ガラテヤ3:28が示すように、十字架は社会的ヒエラルキーを解体し、平等な共同体を成立させる基盤であると結びました。
当日は約80名の参加者が集い、聖書が示す「平等」と「共同体」の原点に立ち返る学びの時となりました。



