2010年10月、新翻訳事業がスタートし、7年間の翻訳作業、1年間の出版準備を経て、2018年12月『聖書 聖書協会共同訳 引照・注付き』が発行された。今回の翻訳事業では、目的や対象に応じて翻訳を行う「スコポス理論」が採用された。また、聖書翻訳支援ソフト「パラテキスト」を使用し、翻訳・編集作業を効率的に進めた。

新しい聖書の特徴は、スコポス理論に基づき、礼拝での朗読にふさわしいものとしたこと、聖書協会訳として初めて旧新約全体に注が付いたこと、日本語の変化に対応したことなどである。

訳語の変化の特徴的な例として、最新の聖書考古学、植物学、動物学の成果を反映して、「いなご」が「ばった」、「薄荷、いのんど、茴香」が「ミント、ディル、クミン」となった。

旧約の詩編は、簡潔で締まった文体になった。詩編7編10節は、新共同訳では「あなたに逆らう者を災いに遭わせて滅ぼし あなたに従う者を固く立たせてください」だったが、「悪しき者の悪を断ち 正しき者を堅く立たせてください」である。これは、原語担当者と日本語担当者が最初期から組になって翻訳作業を進めた成果である。

近年の聖書学の進展により訳文が変わった箇所として、旧約では、出エジプト記3章14節に現れる神の名「わたしはある」が「私はいる」となった。新約では、従来「キリストへの信仰」と訳されてきた「ピスティス・クリストゥ」がローマの信徒への手紙3章22節などで「キリストの真実」となった。


和訳史

和訳史01|キリシタン時代の初期の聖書

日本における聖書の歴史は、1549年フランシスコ・ザビエルが初めて鹿児島に上陸した時に…

和訳史02|三人の漂流民とギュツラフの出会い

1832(天保3)年10月11日、尾張米を積んで、鳥羽港を江戸へ向けて出航した…

和訳史03|現存する最初の日本語聖書

最初に日本語に翻訳された聖書は、ギュツラフの「約翰福音之傳」(ヨハネ福音書)と…

和訳史04|日本で最初に出版された聖書 版木が語るロマン・・・

1859(安政6)年、開国後すぐに来日した7人の米国宣教師たちの中で、聖書翻訳の…

和訳史05|翻訳に尽くした人々、日本の聖書普及事業の始まり

1872(明治5)年9月20日、日本在住の各ミッション合同の第1回宣教師会議が…

和訳史06|文語訳から口語訳へ

新約聖書はヘボン、S.R.ブラウンを中心とする「翻訳委員社中」が、1874(明治7)年から翻訳を始め…

和訳史07|「聖書 新共同訳」の誕生

1968(昭和43)年、聖書協会世界連盟(UBS)とローマ・カトリック教会の間で協議が成立し…

和訳史08|31年ぶりの新翻訳「聖書 聖書協会共同訳」

2010年10月、新翻訳事業がスタートし、7年間の翻訳作業、1年間の出版準備を経て…